木の棚の透明なガラス瓶に入った琥珀色のにかわの粒

ゼラチンの来歴は、冷たい菓子だけの歴史ではありません。皮や骨、腱などの結合組織を煮て得られる接着剤、にかわにもつながっています。英語の参考事典では、動物性の接着剤をコラーゲンの加水分解によるたんぱく質の材料として説明しています(にかわの原料と製法)。

木や顔料を結びつける材料

古代のにかわには、木製品や壁画に使われた痕跡があります。動物由来の接着剤は、薄い木を重ねて貼る仕事や、陶器の割れ目をつなぐ仕事にも利用されました。魚からつくるにかわもあり、動物の皮だけに原料が限られていたわけではありません(動物性接着剤の利用史)。

墨や絵具では、にかわは色のついた粒子をまとめ、紙などに定着させる材料です。日本語版のゼラチンの解説では、墨を、すすとにかわを練って成形・乾燥させたものとして説明しています。すすのように水になじみにくい粒子を水中に分散させる役割も挙げています(美術でのにかわの利用)。

にかわと食品用のゼラチンには、精製度の違いがあります。一般に、食品や医薬品に使う純度の高いものをゼラチン、画材や工芸の接着剤に使う精製度の低いものをにかわと呼び分けます。手仕事ではにかわの吸湿性や保水性も利用されます(精製度と用途の違い)。

弦楽器の組み立てににかわが用いられるのは、木を接着できることに加え、熱や蒸気で接合を緩められるためです。楽器を調整したり修理したりする際、接着した箇所を外せる性質が意味を持ちます。水と温度に応じて性質が変わる素材として利用されています(弦楽器の接着)(水と熱に対する接着剤の性質)。

煮出す手間から、甘いゼリーへ

食品用ゼラチンが広まる以前、子牛の足からゼラチンを取り出し、澄ませて使うゼリーがありました。その液は塩味の料理にも、果汁や砂糖を加える菓子にも使われました。甘いゼリーと肉のゼリー寄せは、材料の段階ではつながりのある料理です(食品用ゼラチンが広まる前の料理)。

18世紀には、子牛の足などから得たゼラチンに色や香りをつけ、小さなグラスの中で層にして固める調理があったと、英語版のゼラチン菓子の解説にあります(グラスに重ねたゼリーの記述)。ゼラチンの液を調製するところから、色をつけて重ねるところまでが、ひと続きの調理でした。

同じ解説では、骨からゼラチンを取り出す作業に時間がかかるため、19世紀半ばまでゼラチン菓子が調理の人手を要する料理の象徴だったと説明しています(調理にかかった労力)。乾燥したゼラチンを他の材料に加える調理との違いは、原料から固める成分を取り出す工程を、台所で引き受けていた点です。

日本語版のゼリーの解説によると、冷蔵技術が発達した現代のゼリーでは水分に対して約3%のゼラチンが使われるのに対し、18世紀末から19世紀初頭の製菓用ゼリーではその1.5~2倍が用いられたとされています(製菓用ゼリーの歴史)。ここで示されるのは調理の歴史における比較であり、あらゆるゼリーに共通する配合ではありません。

甘くないゼリー、アスピックとテリーヌ

アスピックは、肉のだしやスープをゼリー状にし、肉、魚介、野菜、卵などを包む料理です。甘い菓子と同じように型に流しても、だしの味を使う料理になります。解説では、色のないものから琥珀色のものまであり、料理を覆う用途と、具を包む用途の両方が示されています(アスピックの定義と使い方)。

アスピックには、やわらかなもの、切り分けられるものなどの違いがあります。具を覆ってつやを見せたり、型に入れて料理の形を整えたりもします。単に煮汁を固めるだけでなく、固まり方を料理の見せ方に使う技術としても広がりました(アスピックの形と用途)。

テリーヌということばは、ふた付きの土鍋などの器を指し、その器でつくる料理の名前でもあります。型に肉、魚、野菜などを詰めて火を通す料理と、スープを固めるアスピックは、名前の由来が異なります。器の名前と、固める材料の名前を分けて読むと、料理の説明を整理できます(テリーヌという器と料理)。

日本の煮こごり、乳や泡を使う菓子

日本の煮こごりは、ゼラチン質の多い魚や肉の煮汁が冷えて固まったものです。調味料と食材の風味を含むため、精製された調理素材としてのゼラチンとは、そのままの味が違います。煮た具材ごと固める料理の呼び名にもなっています(煮こごりの意味)。

煮こごりを温めると、含まれるゼラチンが溶けて再び煮汁になります。固まったまま冷たい料理として供するほか、温かい食材にのせて溶かす食べ方も資料に記されています。固まった状態だけでなく、再び溶ける性質も調理に使われています(加熱した煮こごり)。食材から煮汁をとる例は、コラーゲンを含む食材と料理で紹介します。

ババロアでは、卵黄や乳を使った生地にゼラチンを加え、泡立てたクリームなどを合わせて冷やし固めます。ゼラチンを使う菓子であっても、果汁の透明なゼリーと同じ材料構成ではありません。乳や卵を含む生地と泡を合わせることで、別の食感をつくる料理です(ババロアの材料とつくり方)。

マシュマロは、植物の粘りを使う菓子から、ゼラチンと泡立てた卵白を用いる形へ変わったと記述されています。その転換は19世紀後半のことと、日本語版の解説にあります(マシュマロの材料の変化)。同じゼラチンでも、液体を透明に固める働きと、泡を含む菓子の形を支える働きでは、使う場面が異なります。

マシュマロという名前は、ウスベニタチアオイの英語名に由来します。植物から得る粘りを使った歴史が、菓子の名前に残っています。現在の一般的な製法では、この植物を使わず、砂糖や水あめ、卵白、ゼラチンを用いると説明されています(名前の由来と材料)。植物名に由来する菓子名と、いま使うゲル化材料の由来は、必ずしも一致しません。

写真やカプセルにも広がる性質

ゼラチンは、写真用のフィルムや印画紙にも使われてきました。感光する物質を結びつけ、分散した状態を保つ材料になるためです。食品の固める材料という役割だけでは、こうした利用は説明しきれません。粒子を保つ性質も材料として利用されています(フィルム・印画紙への用途)。

また、ゼラチンの用途として、医薬品のカプセルや錠剤、トローチも挙げられています(医薬品の材料としての用途)。これは材料の利用先の説明です。料理で使うゼラチンを医薬品と同じ目的で使える、という意味ではありません。台所での形状や温度の扱いは、ゼラチンで固める基本で説明しています。

コラーゲンを調べる生物学と、ゼラチンを使う調理や工芸は、材料を見ている尺度が違います。分子の構造が明らかになる過程は、コラーゲン研究のあゆみにつながります。利用の歴史から進む場合にも、材料の性質と研究の報告を区別して読むことができます。

参考にした資料