白い皿のゼラチンの板と、粉ゼラチンを入れた小鉢

コラーゲン、ゼラチン、コラーゲンペプチドは、無関係な原料の名前ではありません。コラーゲンからゼラチンが得られ、さらに加水分解が進んだものはコラーゲンペプチドなどと呼ばれます。もとの材料が共通していても、鎖の形や長さ、溶けた後の集まり方によって性質が変わります。

コラーゲンゼラチンコラーゲンペプチド加熱酵素で分解
原料の前処理や精製も含む変化を簡略化しています。加熱による構造の変化と、さらに進む加水分解は、別の段階です(ゼラチンの製造)(加水分解物の呼び方)。

加熱で変わるのは、分子の立体構造です

体内のコラーゲンは、アミノ酸の鎖が巻き合う構造を持っています。加熱によってらせん構造がほどけると、もとのコラーゲンとは物理的・化学的な性質が異なるゼラチンになります。体の組織を支える状態と、温水に溶ける調理材料になった状態は分けて考えられます。

このような、たんぱく質の折り畳まれた形が崩れる変化を変性といいます。変性では、アミノ酸同士をつなぐペプチド結合そのものは保たれ、より高次の構造が変わります。鎖の形がほどけることと、鎖をつなぐ結合が切れることは、同じ意味ではありません。

ただし、ゼラチンの製造全体を加熱だけで説明することもできません。ゼラチンはコラーゲンの部分的な加水分解で得られる、たんぱく質やペプチドの集まりです。前処理や抽出の段階で、分子の間や内部の結合にも変化が生じます。加熱による形の変化と、製造工程における分解を区別すると、呼び名の関係が整理できます。

原料と前処理、抽出の流れ

ゼラチンの原料には、牛の骨や皮、豚の皮、魚の皮やうろこがあります。同じ粉状になっていても、由来する材料は同じとは限りません。製造では、原料のなかのコラーゲンを取り出しやすい状態にし、温水で溶出させてから精製・乾燥します。

牛の骨や魚のうろこでは、コラーゲンと強く結びついている無機質を取り除く脱灰の工程があります。皮から抽出する場合と、骨から抽出する場合では、準備する材料の状態が違います。原料を単に細かくするだけでなく、抽出に先立って成分を分ける操作が含まれます。

前処理には、石灰溶液を使うアルカリ処理と、酸に浸す酸処理があります。原料の強固な架橋結合に働きかけ、溶けにくいコラーゲンを可溶化する工程です。ここでいう架橋は、鎖と鎖の間にできるつながりを指します。処理を経た原料から、温水を用いてゼラチンを抽出します。

粘度やゼリー強度は、前処理の条件や抽出温度などによって異なります。魚由来のゼラチンは、牛や豚由来のものよりも融ける温度や固まり始める温度が低い場合があります。名称だけでなく、由来や処理条件も、できあがる材料の性質に関係しています。

水を抱え込む網目が、ゼリーを支えます

ゼラチンは温水に溶け、冷えると鎖の間の水素結合などによって網目をつくり、その内部に水を抱え込みます。液体がすべて別の固体に変わったのではなく、水を含んだ網目全体が流れにくくなっています。このように水を含むゲルを、ヒドロゲルと呼びます。

ゲルは、液体を多く含みながらも、内部の立体的な網目によって固体のように振る舞います。ゼリーを皿にのせると形を保つのは、その構造によるものです。透明かどうかや、甘いかどうかは、ゲルという分類を決める条件ではありません。

流動性のあるコロイドの状態はゾルと呼ばれ、網目によって流れにくくなったものはゲルと呼ばれます。分子間力などで支えられた物理ゲルのつながりは可逆的で、温度の変化などによってゾルに戻ります。ゼラチンのゼリーが温まると融け、冷やすと再び固まる性質は、温度によって戻るゲルの身近な例です。

ゼラチンのゲルは再加熱によって融かせます。この可逆性は、ゼラチンをもとの動物組織のコラーゲンへ戻すという意味ではありません。抽出された材料が、溶液とゲルの状態を行き来することです。調理で起こる状態の変化と、組織をつくる分子の状態とを混同しないことが大切です。

ゼリー強度を比べるブルーム試験

ゼラチンのゲルの強さには、ブルームという測定値が使われます。ブルーム試験は、決められた条件でつくったゲルの表面を、所定の器具で押し下げるのに必要な重さを測る試験です。硬さを手触りだけで表すのではなく、条件をそろえて比較します。

ブルーム値が高いほど、ゲル化や融解の温度が高く、固まる時間が短くなる傾向があります。ゼリー強度が製造条件によって変わることも踏まえると、同じ重量のゼラチンでも仕上がりを完全に同じとみなせない理由が分かります。これは材料の物理的な性質を比べる尺度であり、栄養の量を表す数値ではありません。

さらに鎖を分解したものが、コラーゲンペプチドです

加水分解は、水が反応に加わって、分解した物質が得られる化学反応です。生体内では、加水分解を進める酵素も働きます。コラーゲンの分解には、酸やアルカリを使う方法のほか、酵素による方法があります。

ゼラチンがさらに加水分解されたものには、ゼラチン加水分解物、コラーゲン加水分解物、コラーゲンペプチドといった呼び名があります。ペプチドは、アミノ酸が短い鎖状につながった分子の総称です。原料の由来を表すコラーゲンという言葉と、分解後の鎖を表すペプチドという言葉が組み合わさっています。

酵素でゼラチンの分子が切られ、ペプチドが十分に小さくなると、しっかりしたゲルをつくれなくなります。生の果物に含まれるたんぱく質分解酵素でゼリーが固まらなくなるのは、このように鎖が分解されるためです。粉末という見た目が似ていても、分子の大きさや網目をつくる性質まで同じとは限りません。呼び名の詳しい読み方は、ペプチドとは何かで説明しています。

成分表では、食品としてのゼラチンを見ます

文部科学省の食品成分データベースの「ぶた/ゼラチン」の項目では、たんぱく質87.6 g、水分11.3 g、脂質0.3 gと記載されています。これは、その食品の成分欄の数値です。液体を加えてつくったゼリーや煮こごりの成分を、そのまま表しているわけではありません。

たんぱく質の量とアミノ酸の構成は、別の見方です。ゼラチンにはグリシンとプロリンが多く含まれる一方、必須アミノ酸のトリプトファンは含まれていません。食品としての位置づけは、食事のなかでのコラーゲンで詳しく扱います。

にかわとの関係

にかわは、動物の皮や腱などから抽出した、ゼラチンを主成分とする材料です。食品などで使うゼラチンは、さらに精製して純度を高めたものです。動物性の接着剤は、皮や骨などのコラーゲンを部分的に分解してつくられます。調理材料と接着材料は、もとのたんぱく質という点でつながっています。

溶かしてから冷やす手順や果物との組み合わせは、ゼラチンで固める台所の基本で紹介します。分子の変化を押さえておくと、原料、製造、調理という別々の場面が読み分けられます。

参考にした資料