高品質なコラーゲンタンパクをどの様に作り出し、次にコラーゲンタンパクが分解されると、どの様なコラーゲンペプチドが作り出されていくのか、そしてこれらがもつ生理作用を解説いたします。
「カラダをめぐるコラーゲンの旅 Part 2」壊してできる活性型コラーゲンオリゴペプチドACOP
産学連携(※)のバイオベンチャー企業における活性型コラーゲンオリゴペプチド(ACOP)の研究でわかってきた新たな知見をいろんな視点でレポートします。
(※)東京農業大学、城西大学、(株)エアープランツ・バイオ
前号において、タンパク質はカラダの中でつくりだされ、その後次第に壊されていく、この一連の流れを「タンパク質代謝」ということをお伝えしました。そしてコラーゲンタンパクにおいては、高品質なコラーゲンタンパクをつくる、そして分解により高品質のコラーゲンペプチドが産生する、すなわち高品質のコラーゲン代謝を円滑にすることが、カラダの正常な機能維持に重要であると解説しました。
次の課題は、「高品質のコラーゲンペプチドがどの様に働くかを調べること」です。そこで今回は、まず高品質なコラーゲンタンパクをどの様に作り出し、次にコラーゲンタンパクが分解されると、どの様なコラーゲンペプチドが作り出されていくのか、そしてこれらがもつ生理作用を解説いたします。
コラーゲンタンパクを構成するアミノ酸の特徴
コラーゲンタンパクの特徴をもう少し詳しく見ていきましょう。ここではI型コラーゲンに焦点を絞ります。I型コラーゲンタンパクのアミノ酸は1464個のアミノ酸から構成されています。含有量の多いアミノ酸はグリシン、プロリン、アラニンです。一方、欠けているアミノ酸はトリプトファンです。余談ですが、コラーゲンを多く含む食材はトリプトファン不足になりがちなので、トリプトファンが多く含まれる大豆や穀類などを一緒に摂り入れることが推奨されています。
一方、含有量の多いプロリンですが、水酸化という化学反応が生じ、水酸化プロリン(Hyp)に変換されます。前号で紹介したようにHypはコラーゲンタンパクの三重構造に必須で、コラーゲンタンパクでしか作られません。なぜなら、水酸化反応が生じるために、アミノ酸の並び方に法則があるからです。水酸化という酵素反応が生じるために、その酵素はプロリン-プロリン-グリシン(Pro-Pro-Gly)からなる3つのアミノ酸配列を認識し、2番目のプロリンに水分子を付加させます。コラーゲンタンパクにはこの配列が49箇所も存在し、多い箇所は5回も直列に並んでいます。
コラーゲンタンパクにとって高品質であるためには、このHypの数がポイントであり、水酸化反応をつかさどる酵素、プロリル4-ヒドロキシラーゼが鍵となります。この酵素は、コラーゲン合成が生じている細胞に多く存在することが判明していますが、実はこの酵素が正常に働くために必要な物質が2つあります。一つはビタミンC(アスコルビン酸)で、もう一つは鉄分です。
高品質コラーゲンタンパクづくりに欠かせないビタミンC
ビタミンC不足(欠乏症)になると壊血病になることが知られています。壊血病とは15世紀に始まる大航海時代の多くの船員に生じた病気です。様々な器官で出血性の障害が生じ、死に至るため非常に恐れられました。原因は生野菜や柑橘類などの果物を長期間摂取しなかったことによる栄養不足でした。解決策として当時は船上で野菜や果物を栽培し、摂取するようにしたそうです。
1930年代に入り、ようやく壊血病の原因がビタミンC欠乏であることが判明し、ビタミンCの補給が予防策として定着しました。症状としては組織間をつなぐ部分の障害が微小血管に損傷を与えるため出血します。皮膚や粘膜からの出血、歯の脱落、創傷治癒の遅れ、易感染性、古傷が開くなどの症状であり、子供では骨形成不全や骨折、歯の発生障害、軟骨や骨境界部に出血も認められます。
後にこれらの症状はプロリル4-ヒドロキシラーゼの酵素活性が消失したことによる高品質コラーゲンの不足により生じることが判明しました。すなわち、ビタミンCのアスコルビン酸はプロリル4-ヒドロキシラーゼの酵素活性を調節しており、ビタミンCがスイッチとなり酵素が動き出し、コラーゲンタンパク中の水酸化プロリン量が増加することが判明しました。鉄分にも同様な働きが判明しています。すなわち、水酸化プロリンの合成を高め、高品質なコラーゲンタンパクを作りだすためには、ビタミンCと鉄分を摂取しなければなりません。
コラーゲンは分解酵素で切断され活性型ペプチドになる
次に、高品質コラーゲンタンパクの分解も品質維持の為に必要となることを解説します。すなわち、古くなったタンパク質や壊れかけたタンパク質を分解し、新たなタンパク質を作り出す機構が存在します。コラーゲンタンパクを監視し、コラーゲンペプチドになるまで切断して壊すコラーゲン分解酵素は数多く存在し、適材適所で働いていることが知られています。
そしてこれは数段階の過程から成り立っています。細胞と細胞を接着させる機能を持つコラーゲンの三重構造はコラゲナーゼにより一本鎖のコラーゲンタンパクになります。すなわちゼラチンです。続いてゼラチナーゼにより細断化されコラーゲンペプチドとなります。細胞外で働く分解酵素は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)と呼ばれ、数多く存在しています。MMPはコラーゲンタンパクの種類や構造を見極め、それぞれの特性に合うように働いています。
一方、MMPの酵素活性が高くなりすぎるとコラーゲン分解が亢進してしまいますので、それを抑える反応が生じます。MMPの酵素活性を阻害する阻害酵素(TIMP)が働きます。実はMMPとTIMPのバランスもコラーゲンタンパクの量を調節する重要な仕組みとして知られています。このバランスが崩れ分解が亢進した際の疾患が、慢性関節リウマチ、変形性関節症、外傷性関節炎などです。逆に分解抑制が亢進した際に生じる疾患には、肺線維症、肝硬変、動脈硬化、強皮症などが知られています。
活性型コラーゲンペプチドのはたらき
分解で生じたコラーゲンペプチドは、最終的にアミノ酸が2つや3つ並んだジペプチドやトリペプチドになります。必要以上のアミノ酸は更に分解され排泄されていきますが、これら一部のペプチドは尿細管から再吸収されます。
次号で詳しく述べますが、ジペプチドやトリペプチドへ分解される前にもう少し長いペプチド体が中間体として存在します。アミノ酸の数の違いによる様々なペプチド体が存在します。5個や6個のアミノ酸から10個以上が繋がったオリゴペプチドです。実はこれらはコラーゲンペプチドと総称されジペプチドなどと一緒くたにされてきました。最近、我々の研究からオリゴペプチドの意義が分かってきました。まず我々はこれらを総称して活性型コラーゲンオリゴペプチド(ACOP)と命名し、ジペプチドやトリペプチドと区別しました。ACOP自体の特有の働きは未だ不明ですが、ACOPに対し、これらが細断化されて短くなったジペプチドやトリペプチドとは働き方が異なると考えられました。
コラーゲンペプチドのジペプチドやトリペプチドの中でも最も顕著に生理作用を示すものは、プロリン(Pro)と水酸化プロリン(Hyp)からなるジペプチド(Pro-Hyp)です。これが標的組織の細胞に到達し、作用を発揮していきます。具体的には肌や髪、爪、関節、骨、筋肉などの組織の恒常性を保つことに加え、褥瘡、高血圧、高血糖の抑制作用が明らかになっています。
詳細な効果に関して表に示します。どれも学術論文や学会発表で公表されている結果です。これらの効果に共感される方は少なくないと思います。一方で、全く体感を持たない方は不思議でたまらないと思います。
次回の予告 Pro-Hypの作用機構とそれらの供給源ACOPの役割とは!
次回はコラーゲンペプチド摂取における体感の個人差について、原因究明へアプローチしていきます。まずコラーゲンペプチドの活性本体となるPro-Hypの細胞への作用機構についてご紹介します。その上で、なぜACOPが存在するのか、その意義を述べたいと思います。我々はこの点こそが、コラーゲンペプチド摂取における体感の個人差に繋がるのではないかと考えています。
【参考文献】
一般社団法人 日本血栓止血学会webサイト 壊血病
日本農芸化学会誌 ビタミンCとコラーゲンの生成 vol.64 (1990)
岡山大学三朝分院研究報告 コラーゲン分解系と疾患 vol. 66 (1995)
ハーパー・生化学 上代淑人 監訳 丸善
記事執筆
エアープランツ・バイオ@東京農大
(株)エアープランツ・バイオは東京農業大学総合研究所にラボを構えるバイオベンチャーです。
これまで測定することが困難であった低分子ホルモンやペプチドに着目し、それらの抗体を独自に作製することで新たな測定系の開発に挑戦しています。最近、活性型コラーゲンペプチド測定の開発が成功したことにより、コラーゲンペプチド代謝研究の飛躍的な進展が期待されます。
エアープランツ・バイオはバイオの技術で毎日の健康生活をサポートしてまいります。
URL:https://airplants-bio.co.jp/