強いストレスなどでバランス感覚が乱れ起こるめまいは、慢性化するケースもあり注意が必要です。効果的な予防法や受診の目安について、めまいのエキスパートが解説します。
「めまい」は バランス感覚を鍛える体操で克服!
立ち上がったときにフラッ、家事や仕事で忙しいさなかに突然クラクラ……不快なめまいは心身からのSOSかも。強いストレスなどでバランス感覚が乱れ起こるめまいは、慢性化するケースもあり注意が必要です。効果的な予防法や受診の目安について、めまいのエキスパートが解説します。
1.「めまい体質」の人はストレスで繰り返しやすい
私たちは起きているとき、常に目や耳、体を使いバランスをとっています。こうした各器官の感覚が、耳の奥にある平衡感覚を司る神経(前庭神経)や小脳で情報として統合されるのです。
しかし、何らかの原因でそれがうまくいかなくなると、バランス感覚が乱れ、めまいとなってあらわれます。
めまいには、耳の奥(前庭)にある耳石と呼ばれるカルシウムの粒が悪さをして起こる「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」や、何等かの疾患が引き金となるもの(「メニエール病」や「片頭痛」、「前庭神経炎」など)がありますが、実は原因不明のタイプも少なくありません。医療機関で耳や脳の検査をしても病気は見つからず、異常なしとされるケースが大半です。
そのような場合、背景に「めまいを起こしやすい体質」があるかも知れません。この体質の人は、環境や気候の変化、人間関係等、強いストレスを受けると自律神経が乱れるなどで、体のバランス感覚が整いにくく、再発を繰り返してしまうのです。
めまいをよく起こして気になる……そんな人は次の一覧でチェックしてみましょう。
“めまい体質度”チェック
チェック項目が多いほど、めまいを起こしやすいといえます。
- 几帳面
- こだわりが強い
- 何事も徹底的にしないと気がすまない
- よく乗り物酔いやシネラマ酔いする
- 片頭痛もち
- 過換気症候群を起こしたことがある
- 子どものころ自家中毒の経験がある
※上記①~③は性格傾向。④と⑤は小脳におけるバランス感覚の統合機能低下。⑥と⑦は自律神経の乱れによると考えられている。
用語解説
- シネラマ酔い:映画館などの大画面でめまぐるしく映像が動くと気分が悪くなること。
- 片頭痛:光やにおい等をきっかけにこめかみがズキズキ痛み動くと悪化。嘔吐をともなうこともある。
- 過換気症候群:不安や緊張で呼吸が多くなり苦しくなったりしびれなどの身体症状が起こったりする。
- 自家中毒:嘔吐や顔面蒼白、頭痛などの中毒のような症状が起こるが食品が原因ではない。通常は成長とともにおさまる。
2.体質と関係なく起こる良性のめまいも、 繰り返すとやっかいな存在に
「めまい体質でもないのに、よくめまいがする」という人は、「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」の可能性があります(めまい体質の人にも起こります)。これは耳の奥(前庭)にある耳石と呼ばれるカルシウムの粒が悪さをするもので、めまいの中でももっとも多いタイプであり、特に更年期以降の女性に多くみられます。
耳石が剥がれ落ち、三半規管に入り込むとそこを満たしているリンパ液の流れが乱れ、めまいが起こります。
剥がれた耳石がもとにもどれば、症状はすぐに治まるため命に別状はありませんが、毎日のようにめまいが起こり、それが3カ月以上続いたら要注意。「持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)」と呼ばれる慢性めまいの可能性があります。
過去に前庭神経炎などの病気にかかった人が、何年も経ったのち、後遺症として発症する場合もあれば、何の病歴もない人が突然発症する場合もあります。
いずれにしても発症してから治療開始までの期間が長いほど、治りにくいのが特徴です。良性とされるBPPVも、完治していないとPPPDに移行するケースも。慢性化、難治性となりやっかいです。
耳や脳には異常が認められないため、かつては「気のせい」と言われることも多かったPPPDですが、国際的には2017年に診断基準ができ(国内では2019年に紹介された)、リハビリや抗不安薬等の投薬による治療の対象になりました。
いままで病名がつかず不安だった人の中には、PPPDと診断されただけで症状が回復に向かう人もいるようです。
下のチェック表に心あたりのある人は、難治化させないためにも早めに耳鼻咽喉科の受診が望まれます。
また、嘔吐をともなうような激しいめまいを繰り返す場合、メニエール病等の病気の恐れがあるので、やはり早めに耳鼻咽喉科か脳神経科を受診しましょう。
こんな場合は早めの受診を!
- 3か月以上、ほぼ毎日めまいが起こる
- 立ち上がるなどの、動作のたびにめまいが起こる
- 以前、受診したが「気のせい」と言われ、今でもめまいがある(持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)の可能性あり)
- 嘔吐をともなうような激しいめまいを繰り返す(メニエール病、前庭神経炎、片頭痛などの病気の可能性あり)
用語解説
- メニエール病:吐き気や嘔吐をともなう回転性めまい(動いたり回転したりしているような感覚)が突然起こる病気。耳鳴り、難聴をともなうこともある。内耳のリンパ液がたまることが原因だが、なぜ過剰になるかは不明。
- 前庭神経炎:突然の激しい回転性めまいを特徴とする病気で、内耳にあり平衡感覚をつかさどる前庭神経の炎症が原因で起こる。
- 片頭痛:脈打つような痛みやズキズキする痛みが特徴の頭痛。光や音、においに敏感になることも。脳の神経細胞が刺激されて起こるとされている。
男性は「大いびき」をかくメタボ体型に多い?!
良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、男女で好発年代が少し違います。女性は更年期以降ですが、男性の場合は30代以降の、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を合併したメタボ体型の人に目立っています。詳しいメカニズムはわかっていませんが、長時間にわたる酸素不足が耳石のはがれやすさと関係している可能性も。もしめまいが気になり、かつ、SASに特徴的な「大いびき」をかくメタボ体型の人は、メタボ改善がめまい軽減に有効かも知れません。
3.道具いらずで簡単! めまいはバランス感覚を鍛える体操でラクになる!
「めまい体質でもないのに、よくめまいがする」という人は、「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」の可能性があります(めまい体質の人にも起こります)。これは耳の奥(前庭)にある耳石と呼ばれるカルシウムの粒が悪さをするもので、めまいの中でももっとも多いタイプであり、特に更年期以降の女性に多くみられます。耳石が剥がれ落ち、三半規管に入り込むとそこを満たしているリンパ液の流れが乱れ、めまいが起こります。
めまい対策には、バランスを司る前庭神経の機能強化がポイント。そのためには目や頭を動かす“小脳トレーニング”が有効です。オフィスでもできる椅子に座った体操と、起床時におすすめの寝返り体操を紹介します。
1.目玉の体操
左手であごを押さえ、右腕を前に伸ばし親指を立てます。ゆっくり左右に振り、動く親指の先を目で追いかけます。
回数の目安:10往復(20回)×3回を1セットとし、朝、昼、晩1セットずつ
2.振り返り体操
目の正面に親指を立てた状態で腕を伸ばします。その親指の先を見つめたまま頭を左右に振ります。めまいが起こったり気持ちが悪くなったりした場合は、無理のない範囲で行いましょう。
回数の目安:10往復(20回)×3回を1セットとし、朝、昼、晩1セットずつ
3.寝返り体操
特にBPPV改善に効果的な体操です。
- 仰向けに寝た状態で10秒数えます。
- 首だけ右を向け、10秒数えます。
- 体ごと右を向き、10秒数えます。
- ふたたび仰向けになり、10秒数えます。
- 首だけ左を向け、10秒数えます。
- 体ごと左を向き、10秒数えます。
1~6を3回繰り返します。めまいが起こった場合、無理のない範囲で行いましょう。
パソコンやスマホの見すぎにも要注意
新型コロナウイルス対策により在宅時間が長くなって、ついスマホやパソコンも長時間見続けてしまう、という人も多いかも知れません。目からの情報が多いことや疲れ目が、小脳のバランス制御を悪くして、めまいの要因になることもあります。特に、上記のチェックでめまい体質度が高い人は、ほどほどを心がけましょう。
お話を伺った方
東海大学 医学部
専門診療学系 耳鼻咽喉科准教授
五島 史行(ごとう ふみゆき)先生
慶應義塾大学医学部卒業後、ミュンヘン大学留学、国立成育医療センター非常勤医師、国立病院機構東京医療センター臨床研究センター平衡覚障害研究室室長等を経て2018年から現職。研究テーマはめまい全般、特に「不安とめまい」「頭痛とめまい」「小児のめまい」「めまいの回復過程(リハビリテーション)」についてなど。近著に『薬に頼らずめまいを治す方法』(アチーブメント出版)。